神様に近づいた日? ...出雲紀行

(山口陽三筆)

出雲。「いずも」...行ったことのない島根県、出雲大社のあるところ、出雲大社は縁結びの神様とは 聞いているけれど、縁がない独身時代にも足を運ばなかった未踏の地。 だからというわけではないのだが、ひさしぶりに一人でぶらりとする時間を持つことに至った。


訪問理由

結果的に一人旅っぽい時間を過ごすことはできたが、理由はれっきとした仕事であった。 サーバーPCを設置してあるお客様先に訪問し、不要になったのではずして梱包して搬出する。 ふだん担当することの少ない仕事内容だが諸事情があって担当することになった。


交通手段

関東圏から "普通に" 出雲に行くのはどういうルートなのだろうか。新幹線は通っていないので 岡山県あたりまで新幹線で行ってからローカル線に乗り換える方法が一つ。費用を気にしないなら 飛行機で飛んでしまう方法が一つ。時間を気にしないなら夜行バスという方法もあるのだろうか。 今回は同行する職場の同僚と相談し、お客様先を訪問する時刻が決まっていることもあって 飛行機になった。

空港というと1県に1個くらいなのかと思いがちだが、島根県は3個ある。東に出雲縁結び空港、 西に石見空港、そして離島に隠岐空港。表現がたぶん正しくないが「ぜいたくな」環境である。 それもそのはず、地図で見てみると横にとても長い。隣接する鳥取県の大きさがピンと来ないが、 昨今選挙で話題になった「合区」、2県で1名しか選出されないのはどうなのかという指摘も もっともと感じる。鳥取の1番東側の人と、島根の1番西側の人とで、いろいろな意味で乖離もあって 交流も持ちづらいだろうに、それでも2県で1名でいいのかどうか。そんなことも思わせるほどの、 島根県の "横の広さ" である。


神在月

お客様先を訪問する日にちは11月4日(金)に決まった。10月は神無月と呼ばれるがそれはなぜならば 日本国中の神様が出雲に集まって、日本各地の神様がいなくなるから、といった話くらいは 知っていた。「11月ならその人の波(神様の波?)もなくなって宿も簡単に取れるだろう」と 思っていたが大まちがいだった。インターネットでビジネスホテルを検索するも満室が多い。 インターネットで満室でも直接電話して、1名分くらいなら確保できることもよくあるので 電話してみるもダメ。「出雲では「神在月(かみありづき)」と言ってお祭りもあり、観光に訪れるお客様が 多い時期なんです」とホテル従業員。神無月の反対の意味として神在月と呼ぶのだろうという 想像はつくが、それは10月で終わったのではないかと思ったらとんだ無知だった。 旧暦で10月を神無月と呼んでいたものであり、今の時代の暦で言うと11月になる。 そうだったのか...。3件目に電話したホテルでようやく取れたのでまだよかったが。


出雲入り

11月4日(金)。羽田空港で他の飛行機は遅延がないのに出雲行きの便だけ遅れる。 お客様先を訪問する時刻と、その前に昼食くらいは食べておきたいという事情とでやきもきしたが、 飛行機の出発が10分遅れると到着後の空港からのバスも10分くらいは待っていてくれるやさしさ。 「出雲市駅」に着くのも10分遅れだったが昼食に入った店でお客がいなかったこともあって すぐに昼食(出雲そば)にありつけ、慌てずに時間を守ることができた。


左:出雲市駅、右:近くの定食屋で出雲そばと親子丼のセット

(話は前後するが)飛行機が着陸に向けて高度を下げると海と陸が見えてくる。ああ、たぶん日本海なんだろう と思って見ながら、いよいよ到着寸前で陸からまた日本海に出た...と思ったが、いや、海の向こうにも 陸がある。海だと思ったのは湖だった。宍道湖。やはりけっこう大きいのね。 出雲縁結び空港から出雲市駅への移動はバスが便利だが、 見渡す道中、畑が多くて何もないなあ、というかんじ。たまに広大な駐車場を持つコンビニ。 土地はある。

ちなみに空港そのものも、バスの行先等も、空港名は 「縁結び」のところを赤字で表記する。 それにならってこの文章内でもそう表記してみた。


仕事

同僚と昼食を済ませ、出雲市駅からタクシーに乗ってお客様先へ。結果論だが、10分押して いたはずが10分くらい早く着いた。サーバーPCがある場所に案内してもらい、事前に お届けしてあった段ボールを持ってきてもらい、取り外し作業。けっこうすごいところに すごい形で設置されており、難航も予想されたが、なんとか取り外し、段ボールに詰める ところまでできた。

作業は困難なものではないが現地の状況がわからず、かかる時間が読めない。 また搬出のために宅配業者を呼ぶが受け渡しまでどれくらいの時間がかかるか読めない。 そのような事情で終わる時刻が読めないために帰れない場合も懸念してこの日の 宿泊先を確保しておいたわけだが、結果的にはある程度早めの時間に終えることができた。 タクシーを呼んで同僚と出雲市駅に戻る。タクシー運転手に出雲のこと(主に出雲大社)を 聞き、今の時期はお客さんが多いこと、県外から来て結婚式をあげる人も多いこと、 さいきんは国外から来て結婚式をあげる人もいてカップル数増加により分刻みのスケジュール なのに外国人は時間にルーズで会場側が困ること、などを聞いた。


島根ワイナリー

出雲市駅に戻り、出雲大社を訪れてみたいという同僚と、島根ワイナリーでワインを 堪能したいという筆者とで考えは分かれたが、途中まで同じタクシーに乗っていくことにした。 このタクシーの運転手とは野球の話になり、元プロ野球選手の大野豊が出雲の出身で 運転手も相当尊敬している風に見受けられた。大野の1学年下という。「私はねぇ、 江川に監督になってもらいたいんですよ。それで掛布がコーチでね。」と。いやあ、 巨人も由伸監督の世代になっちゃったからもうないでしょう、と答えると、「巨人じゃなくても いいんですがねぇ」と。その世代、その世代で、やっぱり思いはあるものなんだな。

島根ワイナリーのことは今回出雲に行くことで初めて知ったが、 ワインの製造工程を見学もできるし、ワインはもちろん様々なお土産を買える。 また、食事できるところもある。今回は食事の時間ではないのでそちらは試さなかったが、 飲む方は試した。試飲。小さなカップに次々と注いで飲んでみる。甘口、辛口、フルーティー。 どれもなかなかおいしいな。飲み過ぎないようにしないと。7種類試飲できる中で 1番気に入ったのをお土産に買い、あと家族にぶどうジュースとぶどうゼリーもお土産に買った。


左:製造工程見学、右:試飲コーナー


野球場コレクション

温泉はあるのかと一応事前に調べてはあったがまだ時間はありそうなので島根ワイナリーから 散歩。翌日に行こうかと思っていた浜山公園を訪れた。個人的なコレクション「行った球場リスト」 「訪れた甲子園出場校リスト」、今回は高校野球の予選も行われる 浜山公園野球場を見てみようと思った。 道中、出雲ドームも見える。行ければ行きたいとは思っていたがここは施設の都合上、 高校生以上の硬式野球の公式戦は現在は行われていないとか。そういう意味では筆者の 「行った球場リスト」の条件を満たさない。遠くから見ることはできたということにとどめ、 現地訪問は取りやめた。
(ちなみにトップの写真の左に小さく見える白い小山が出雲ドームである)

浜山公園はなかなか広い。入って手前に野球場があるなと思ったらそれは少年野球用。 まんなかにメインの球場がもう1個あるのだが、その途中にも立派な陸上競技場も整備 されている。球場自体は...まあ普通の地方球場というかんじだったが。外野の座席まで 整備されているわけでもないのでプロ野球を開催することまでは難しかろうが、 ナイター照明もあったりする。


左:少年野球場脇にストラックアウト用スペース
右:浜山公園野球場

公園内から隣接する大社高校も見ることができる。何度か甲子園に出場しており、 名前を聞いたことがある学校だ。野球好き運転手との話の中で、今年の甲子園には出雲高校が 初出場したが本命だったのは大社高校で、出雲が大社に勝ったあたりから現実味が出てきた、 というような話をしていた。どちらも公立校だが大社高校の方はスポーツ科もあるとか。 かくして見下ろした学校グラウンドは、敷地が広大。十分な広さの野球のグラウンドに 加えて手前にソフトボール部が活動するグラウンド、奥にサッカー部が活動するグラウンドと、 それぞれ別々にある。隣に高校野球の予選で使う球場があるというのはいろいろ有利だろうとか 思ったが、普段借りるほどの必要もなさそうだ。体育館だかの設備には「全国制覇」の言葉も。 どの部活動の目標として掲げているのか、全部なのか、はわからないが、なかなか「全国制覇」と 公言できる学校は多くなかろう。目指すのはよいと思うが内容があまりに伴っていないと 公言するのも恥ずかしい。それをこうデカデカと掲げられるのはすごい。 それぞれの運動部がめいっぱい活動できるだけの広い敷地を持った公立校、いいものを 見せてもらった。ただし逆光で写真がわかりにくいのは残念。


左:山に見下ろされ、陸上競技場も備える浜山公園
右:大社高校、野球部練習中(体育館には「全国制覇」)


温泉

高校野球の予選時には多くの人も駆けつけるのではないかとも思われるが最寄りの浜山公園 北口駅は無人駅。電車も1時間に1本程度だがこの時間はたまたま2本あった。 浜山公園北口駅から一畑電車で川跡駅へ。見つけた温泉の最寄り駅がこの駅だったのだが、 同時に出雲北陵高校も見つけてあった。地図では距離感がわからず、歩いてすぐくらいにも 見えたが、けっこう歩いてようやく見えた。先出の野球好き運転手情報ではこちらは私立。 まわりは山や田んぼで土地はあるだろうからグラウンドも広々とはしていたが他部と共同か。 公立の大社高校の方がすごかった。グラウンドの中には入らず外の道を歩きながら写真を 撮らせてもらったが、通り過ぎるだけで練習中の野球部員があいさつしてくれる。 野球と関係なさそうな人でもあいさつしておくように教育が行き届いているのだろう。 まさか野球人の先輩、とは思われていないとは思うが。


山と田んぼと出雲北陵高校。他部共同。

駅に戻る方向に歩いて「北山温泉」。すべすべしたかんじのお湯。内風呂だけでなく 露店風呂も堪能。湯冷めしないように風呂をあがってしばらく休んでから川跡駅に戻った。 酔っ払いのじいさんが転んで立ち上がれずに救急車を呼んでいる、などの騒動も あったが川跡駅から出雲市駅へ。予約していたホテルの最寄り駅でもあり、今回の 拠点となった駅に戻ってきた。1度チェックインして着替えやメールチェックなど。 なんだか寒い部屋だな。まして持ってきている私服の中に上着がない(忘れている)。 湯冷めに気をつけてきたつもりだが結局夜道を歩いたり電車を待ったりして、冷えたかな。


夕食

遅めの夕食に出かける。チェックイン時に魚のおいしい店を聞いてみて、ホテルの宿泊客に サービスがあるという、のどぐろの店を紹介してもらったのでそこにしてみる。 体を暖かくしたいなと思ってビールは1杯にとどめ、序盤からのどぐろの茶碗蒸しなどいただく。 ふだんは飲まない日本酒をと「出雲富士」を熱燗でいただいたりする。おいしいな、お魚が進む。 のどぐろを大きさ別に好きな料理方法で頼むことができる。1番小さいのにはしたが料理方法は 隣のおひとりさまと少し差をつけ、あくまで「おすすめを店に聞いてみる」。 焼くか煮つけか、と言われたので煮つけにした。値段を勘案して1番小さいのにしてしまったが もう少しあってもよかったな。

なんだか寒さは吹き飛んでいたが店を出てまだ、あの寒い部屋にも帰りたくない。 ぶらり歩いて、出雲そばとラーメン両方を出している店を見つけた。本来そういうところを 信用しない方がいいのだろうがまあよい。締めのラーメンを食べて帰った。


出汁巻卵、茶碗蒸し、刺身盛合せ

のどぐろ煮つけに出雲富士も参上

受け皿に工夫。
さじを置くために左下がくぼみ、
右端が欠けている

客寄せ。
只今、相席にて絶賛
縁結び中


出雲高校

翌日。出雲からの帰路も飛行機を予定していたが気をつけないといけないのは時刻だ。 1本見送ると数時間、次はない。どの便にするか。ただしもともと希望していた 浜山公園周辺の散策(島根ワイナリー、野球場、大社高校)は昨日終えていた。 その他に出雲北陵高校と北山温泉と出雲高校とを訪問希望地としていたが残っているのは 出雲高校だけになっていた。1番早い9:40、出雲縁結び空港出発の 便にすることにした。そうしたらそうしたで、朝のうちに出雲高校を見なければならず、 慌ただしくはなかった。

出雲にほとんど人脈も土地勘もない筆者も、出雲高校には少々思い入れがあった。 今は縁が切れている知人の出身校である。県内きっての進学校、そして100年に近い伝統がある県立高校。 おそらくだが1県に一つくらいある、その県の重鎮や有力者を多く輩出しているような、 伝統とレベルの高さを併せ持つ学校なのだろう。ただ、そういう学校は必ずしも運動部が 強いわけでもなく、野球部にしても、あったとしても「戦前に甲子園に出たことがある」などの ことが多いと思われるがここは違った。まさに今年、甲子園初出場を果たしたのである。 こういう学校が今の時代に甲子園出場を果たすことはとても難しい。今はどこの県も、特に 野球後進と思われていた県ならば私立の学校法人が入ってきて他県から有力な選手を集めて 野球部を強化してしまうような時代である。島根県の高校野球事情に詳しくはないが、 筆者がファンである横浜ベイスターズの主力となった梶谷を輩出した開星高校に立正大淞南高校、 名球会入りした中日の谷繁元監督を輩出した江の川高校(現在の石見智翠館高校)もある。 県立でも先に紹介した大社高校の他、梨田監督や大リーガー・和田を輩出した浜田高校もある。 いくら予選参加校数が少なめだと言っても甲子園出場はえらいことである。 ぜひとも見たいと思っていた高校だ。

出雲市駅から徒歩7分。最後に坂を上って校門。前知識があるからか、なんとなく重々しさも感じる。 「科学の甲子園」県予選の会場であることを知らせる案内板が学力の高さを感じさせもするし、 なんと「全国優勝」の碑まである。運動部が強いわけでもないなどと失礼なことを言った。 弓道部が全国優勝していたらしい。神様が集まる「大社」高校には「全国制覇」の目標が掲げられていたが、 いろいろ思いを巡らせてみると、壮大な地だ。野球部のグラウンドに向かう。練習が始まる前らしい。 やはり野球部員は部外者の筆者が構内を歩いているのに対してもあいさつしてくれる。 グラウンドは「野球部の」でもなく共用だったかもしれない。サッカーボールが転がっているのが それを象徴しているが、ちょっとした照明の設備もあり、ブルペンらしきところは屋根に覆われており、 わかりにくいが内野部分だけ黒土っぽくなってもいる。言い出せばまだまだほしい設備は あるかもしれないけれど、十分野球に打ち込める環境とも思う。なにより「本当にここから 甲子園に出ましたよ」という事実がそれを物語ってもいる。また、いいものを見た。



校門


まとめ

あくまで仕事だったのは事実だが、仕事以外の時間を多く取ってしまった。

せっかくの機会ではあったが出雲大社は訪れなかった。独身時代の筆者は縁結びのお願いにも 行っていないが、妻は行ったことがあったらしい。妻が時を超えて筆者との縁にたどり着いた ことを考えれば、お礼参りに行ってもよかったのかもしれない。 行かなくてバチが当たったのか、帰宅して発熱していた。 それでも行ってよかった、出雲訪問だった。


帰りの飛行機。離陸直後、たぶん宍道湖上空


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