入れ替え戦らしい入れ替え戦、野球らしい野球

(東京新大学野球連盟2部に所属する東京農工大学を卒業した山口陽三が 同連盟の1ファンとして独自の観点で勝手に語ります)


平成13年11月、筆者はとある大学野球の入れ替え戦を観戦に行った。 場所は創価大学グランド、試合は東京新大学野球連盟の1・2部入れ替え戦で、 東京学芸大(以後学芸大)が1部6位校として、日本工業大(以後日工大)が2部1位校として 出場した。筆者とこの連盟との関わりは「連盟の卒業生(連盟に所属する大学の 野球部の卒業生)」ということで、その関わりの深さ・浅さはわかる人には わかるだろうからここでは省略する。筆者とこの連盟の入れ替え戦との関わりは 平成5年に始まって今にいたっており、多分普通に考えれば長い。 というのも平成5年と6年に自分のチームが入れ替え戦に出場してその独特な 雰囲気に触れ、平成7年からは毎シーズンのように他人の入れ替え戦まで足を運んで観戦し続けて 現在にいたる。かれこれ入れ替え戦と関わって9年目、観戦だけをとっても 7年目である。入れ替え戦の魅力は簡単に言えば、両校の意地のぶつかりあいや 本気の気持ちの表れが見られること、幸か不幸か当事者に「部の歴史と未来」という 重いプレッシャーがかぶさってその中でプレーしなければならないこと、などだろうか。 要するに正常な気持ちを保つのも難しい中で「何をやっても絶対に勝つ」という者どうしの 真剣勝負が見られるあたりが魅力と言ったところだろうか。

さて、今回観戦した入れ替え戦だが、実は連盟の50年前後の歴史の中でも大変貴重な ことがすでに起こっていた。学芸大が1部最下位となって入れ替え戦に臨むのである。 ちゃんとした調査がされているわけではないが、話によればこれだけの長い年月の 中で学芸大は2部以下に転落したことがなく、2部以下の経験がないチームというのは 20チームある現加盟校の中でも当然学芸大だけということになる(創価大や流通経済大は強く、 2部への転落の経験はないが途中加盟のために2部からスタートしている点で、 2部の経験はある)。1部最下位すら、わかっている限りでは平成2年秋の1回。 最下位になって2部校との入れ替え戦でことのほか苦戦した当時の一件は 関係者にとって衝撃的で印象的だったようなので、そう考えると学芸大が1部最下位に なったことだけで事件性はある。ただし、戦前の予想では「学芸大有利」が 圧倒的で、筆者自身もそう思っていた。一般の方の「学芸大有利」は「これだけの 古豪が転落するはずがない」といった考えからであろうが、少し連盟内部を知る 人間はそういう見方はしていなかったようである。「古豪と言えど今現在の実力は かなり落ちていて苦しいものがある。でも、現状1部と2部にまだ差があるので 学芸大の方が有利であろう」といった見方だったようである。学芸大の戦力に 不安な面はあるものの、2季連続で1部に挑戦しながらいいところなく敗れていた 日工大が勝てるとは思わない。そういったところだろうか。ところで筆者自身の 予想ということで言えばどちらかというと "一般寄り" で、まだ学芸大に分があると 思っていた。ただし心配なのは普通の1部校が入れ替え戦に臨む以上に強烈な プレッシャーがかかっているだろうという点。「戦力面で圧倒的学芸大有利、 精神面で圧倒的日工大有利」という見方だった。


実は10日に第1戦の予定が雨で1日延び、第2戦は翌週の17日に組み入れられた。 もともと精神面での不安がある学芸大、この順延はいいことがない。こんな戦い、 1日も早く終わらせたいだろうに終わるのが1週延びたのである。まして第1戦を 勝ってもその勢いをどこかそがれてしまう。一方、失うものがない日工大には 恵みの雨である。勝って勢いをそがれても充実した気分での1週間を過ごせるし、 負けても切り替えられる。何より、大黒柱のエース・三浦裕明(2年生、米谷工業高校)が 第1戦に負けても第2戦に万全の状態で臨める。

この入れ替え戦を迎えるにあたっての一つのポイントに学芸大のエース・府川浩明 (3年生、成田高校)が登板できるかどうか、ということもあった。府川は1部でも 十分通用する好投手だが、今季終盤に故障があったとも言われていた。 府川が登板するかどうかは入れ替え戦の行方を左右すると思っていたが、 第1戦に出てこない。投手事情が「府川と誰かの2本柱」とかならともかく、 絶対的エースである府川が第1戦に出てこないのでは、投げられないのだろう。 一つ、学芸大に苦しい要素が判明した。

平成13年11月11日 創価大学グランド 1・2部入れ替え戦第1戦
1 2 3 4 5 6 7 8
日本工業大(2部1位) 0 1 1 0 0 0 0 0 2
東京学芸大(1部6位) 0 0 0 1 1 4 2
(8回コールド)

試合は序盤、まず日工大がペースを握る。実力が下と思われても、これが3季連続の 入れ替え戦で、日工大の方が入れ替え戦はベテランである。2回にスクイズ、 3回には2部トップレベルの好打者・木野貴之(2年生、浜松工業高校)が ソロホームラン。三浦は走者を背負いながら序盤を切り抜け、日工大がリードを保つ。 しかし4回、2死1.2塁で8番・矢澤祐介(2年生、国分寺高校)に粘られて四球。打たせればそれほど 打てそうにないこの打者だがしっかり粘って四球をとるあたりはさすが1部の選手か。 9番に入っている主将・田北和暁(3年生、小野高校)にまわった。 田北は今季不振だったようだが平成12年春には1部首位打者も獲得している打者。 侮れない。そしてここも田北が粘りに粘って四球を勝ち取った。押し出しで1点。 5回にはライトのまずい守備で金子智昭(2年生、足利高校)の打球を3塁打にしたあと、 渡辺実仁(2年生、米子東高校)の犠牲フライで同点。こうなると学芸大がペースを握ったか、 6回には無死1塁から藤澤佑輔(2年生、桐蔭学園高校)の打球が右中間を越え、2.3塁。 走者は3塁で止まったが本塁への返球を捕手・菊岡敦(2年生、下館工業高校)がトンネルして勝ち越し点が学芸大に。 続く打者、先ほど筆者が「打てそうにない」と思った矢澤の打球もライトの頭を越え、もう1点。 立て続けに長打を食らったエース・三浦を日工大はここであきらめた。 三浦以外に大したピッチャーがいないこと、第2戦は翌週であることを考えれば 三浦をかなりひっぱってもいいとは思っていたが、さすがに連続長打でしびれを 切らしたか。ビハインドは2点だが三浦を降ろした。2番手でマウンドに上がったのは ショートを守っていた渡辺卓也(1年生、水島工業高校)。サイドから投げるが 制球がままならない。まだ2点ビハインドだと思っていたがにわかに試合が壊れ始めた。 この回もう2点、7・8回にも学芸大が追加点をあげてコールドで勝った。

試合が終わって筆者はぶぜんとしていたと思う。気持ちとしては、下部チームであり 現役時代に対戦の経験もある日工大の応援である。その日工大が負けた。 結果は仕方ないとして負け方が過去2度の入れ替え戦と同じ形である。三浦が中盤までがんばっているのに 守備陣のミスで少しずつリードを許し、あるところからは一気に崩れてしまう。 3季連続の入れ替え戦なのにそういう面での進歩や修正が見られない。 そういう理由でぶぜんとしていた。


1週おいて迎えた第2戦。日工大の先発は当然三浦。おそらくはそれなりの 投球はするだろうが勝つのは難しいだろう。まして4番サードの唯一の4年生・ 小竹克幸(下館工業高校)が研究室の都合で来られないと言う。心情的には、学芸大が1敗して 「もう一つも負けられない」という状況でどういうプレーを見せるかも見てみたいし、 日工大に勝ってほしいのだが...。さすがに厳しいか。そんな気持ちで観戦に入った。

平成13年11月17日 創価大学グランド 1・2部入れ替え戦第2戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
東京学芸大(1部6位) 0 1 1 0 0 1 0 0 0 0 1 4
日本工業大(2部1位) 0 0 0 0 1 0 0 2 0 0
(延長11回サヨナラ)

ペースは序盤から学芸大。2回に1死3塁から内野ゴロで1点。3回にも無死1.3塁。 三浦が悪いとは思わないが、さすがに学芸大打線も打てる球はしっかり打ってくる。 ここで4番大田優(4年生、米子東高校)の打球はセンター深くに飛んだ。これをセンターの木野が追って追って フェンスいっぱいまで追って辛うじて捕った。犠牲フライとなって1点は入ったものの 抜けていれば3回にして試合が壊れかねない場面(3点や4点で試合が壊れたと言うのは 大げさだが、もともとの実力差からしてそのくらいの感覚はあった)。ましてや "第1戦なら抜けていた打球" である。どういうことか。筆者は日工大の今季リーグ戦最終戦(対駿河台大戦)を 見に行ったときに「日工大の外野守備がずいぶん浅い」と感じた。 それは三浦がそうそう打たれないであろうことと駿河台大打線が強力ではないことで そうしているのかと思ったが、入れ替え戦第1戦でも同じようなシフトをとっていたのだ。 案の定、打球は外野の上にも横にも抜け放題で学芸大の長打攻勢となっていた。 しかしそこはさすがに日工大も修正してきたわけである。当たり前のことであろうが、 こういうことが功を奏するとなんとなく野球らしいと感じ、おもしろい。

5回に日工大が内岡崇(2年生、水島工業高校)の3塁打と菊岡のタイムリーで1点を返すも、 6回に学芸大はまたチャンス。気づけば毎回のように学芸大が攻めている。甘めのストライクは しっかり打ち返すしきわどい球はファールで逃げる。そしてわずかはずれたボール球は しっかり見極められ、三浦は非常に苦しい投球が続いている。これはこれで、 豪快さはなくとも1部らしさを感じられる攻撃ではないか。6回、1死満塁として 打席に大田。今度は浅めのセンターフライが飛んだ。距離的に3塁ランナーが 勝負していい場面、捕球とともにスタートを切る。本塁でのクロスプレーを 想像する筆者だが、見当違いのことが起きた。木野からショート渡辺への返球が ショートバウンド。この距離で届かないか? 本塁返球して悠々セーフだったか 返球すらしなかったか忘れたが、とにかく防げたかもしれない1点が簡単に入った。 関係ないことだろうが「後ろを締めれば前がダメか...」なんとなくそんなことを 思ったりもする。日工大の外野守備の課題はまだ完全には解消されない。

それでも7・8回と三浦はなんとか無失点で抑える。この時点での筆者の気持ちは 次のようだった。三浦よ、よくがんばった。まだ9回があるからわからないが (まだ失点するかもしれないが)8回3失点、第1戦のことも考えれば上出来ではないか。 試合は敗戦ムードが濃いと思うが押されっぱなしの中で辛うじて3点に食い止めた 投球はたたえたい。そんな気持ちだった。ところが8回裏に日工大が反撃。 さすがに実力で劣っても2点くらいはわからない。1死1塁から渡辺の打球が ライトを越えて3塁打。1点返してなお1死3塁。打席に木野を迎える最高の場面が整った。 学芸大はピッチャーを山田豪(2年生、木更津高校)から小笠原儀彦(1年生、小山台高校)にスイッチする。

昨日、厳密には今日の午前2時を過ぎていた。筆者が個人で作成する連盟ホームページに 今季の2部個人成績を掲載したのだが、結果を見ると木野は打撃4冠(首位打者・ 最多本塁打・最多打点・最優秀出塁率)を獲得していた。その事実を知って あらためてこの場面を見ると、いやがおうにも期待は高まる。一方の学芸大は どう見るか。午前2時に更新されたホームページのことなどこの段階ではおそらく 頭にない。学芸大と木野との対戦でしっかり打たれたのは第1戦のホームランの 1打席だけである。学芸大側に木野を恐れる理由はなさそうか...。「筆者なら」 という前提で選ぶ策は木野を敬遠しての4・5番勝負である。4番の大木博之(1年生、下館工業高校)は 大柄な打者で恐さも感じるがゴロで併殺がとれる。5番の滝口知典(2年生、下館工業高校)も 右打者である(小笠原は右投手。ちなみに木野は左打者)。敬遠...いやしかし。 前にテレビの野球中継で「敬遠は前任投手にやらせなければダメ」という解説を 聞いたことがある。投手の微妙な心理状況のことを言っているのだろう(筆者には 投手経験がないのでわからない)。小笠原に代えたならここは勝負か...? 投球練習の間にいろいろ考えを巡らせるとおもしろい。そして学芸大ベンチの指示は ありがちな「くさいところをつく」だったらしい。4球ともきわどい球で四球。 歩かせるつもりがあったなら山田でも、とも思うがストライクが行ってしまった場合のために 小笠原の球威に賭けたのだろう。また、敬遠という策について考えてみても、 学芸大は2部の日工大のリーグ戦を何試合か偵察に来てビデオ撮影しており、 木野を恐れる理由はあったこともあとで気がついた。1死1.3塁。打席に大木。 小竹に代わって4番サードに入った1年生だ。いまいち得体は知れないがこの打席、 変化球をセンターに打ち返して同点タイムリーとなった。やるではないか。 学芸大が押しっぱなしの展開で「さすがに1部と2部の差があるか」と少し前まで思っていたが 同点になってしまった。こうなったら流れは日工大だろう。後攻ということもあるし、 勝負を決めてしまえ、と思いつつも学芸大も簡単には負けない。8回引き続く 1死1.2塁、延長10回1死1.2塁も日工大は無得点に終わる。

勝負がついたのは11回。学芸大が四死球から得た1死2.3塁のチャンス、 三浦は藤澤にも四球。しかもこの四球に捕逸も絡み、なんともつまらない形で勝ち越し点が入る。 それにしても三浦、さすがに苦しい。ボール球もはっきりしてきて完全に見極められている。 なおも1死2.3塁のピンチが続く。1点でさえ取り返すのが苦しいのに、これ以上の失点は本当に 試合が決まりかねない。しかし奇跡的に耐えた。代打松川慎二(2年生、国分寺高校)、 代打福永泰成(2年生、城東高校)を続けて打ち取った。迎えた11回裏の日工大は 6番の小林正樹(1年生、下館工業高校)から。先頭が出ればまだわからない。 小林はこの日2安打していて期待も持てる。しかし凡退した。小林はまだしも、 ここから先の下位打線はやや見劣りする。もう苦しいか。内岡が四球。 1死1塁で打席に荒川真一(1年生、佐野松陽高校)を迎えた。7回に菊岡の代打から捕手に入った選手、 11回表には貴重な1点を与える捕逸をしている。タイムリーを打った菊岡の次の打席で 荒川が代打に出たときに筆者は観戦に来ていた藤島由幸君(東京理科大。 2部でともに日工大と戦っており、2部のことに詳しい)に 「なんで代えたの? 三浦も苦しいながら力投している中でキャッチャーを代えるのは 勇気がいると思うけど」と聞いたら「う〜ん。打撃は荒川君が上ですから。 勝負に出たということでしょう」との答えだった。そうなのか。しかしそのわりには この荒川、2打席続けて空振りの三振。そうして迎えたこの打席だった。 藤島君は「当たれば飛ぶんだけど...」日工大ベンチからも同様の励ましの声がかかる。 カウント2-1。小笠原が投球動作に入るも荒川がタイム。これを主審が認めたが 投げてしまった小笠原の投球は外角いっぱいのスライダー、ボールだったかもしれないが際どい球。 ちょうど過去2打席荒川が空振り三振したような球だ。仕切り直したあと カウントは2-3まで進み、最後に選択した球はやはりスライダーだったと思う。 しかしコースが甘かった。カウント2-3のせいか、1年生・小笠原が勝利を 焦ったせいか。「当たれば飛ぶ...」その仮定をそのまま地で行くように打球は飛んだ。 打った瞬間それとわかるレフト頭上への逆転サヨナラ2ラン。湧き上がる日工大ベンチとともに、 学芸大ベンチは誰も動いていなかった。荒川が2塁を回ったあたりでようやく 我にかえってとぼとぼと本塁の整列に向かい始めた。こんなことがあるものか。 さすがに「野球」。野球らしい野球を見た。もう少し言えば、学芸大が押しながら 勝負を決めるに至らなかった点やあと一歩のところで勝ち急いだ(?)点などを 入れ替え戦の経験がないゆえのことととらえて、「入れ替え戦らしい入れ替え戦」 とも言えるかもしれない。


迎えた第3戦、筆者の予想は次のようなかんじだった。日工大の先発は当然三浦だろうが、 苦しい試合になるだろう。第2戦でさえ勝ちはしたが苦しい投球が続いて202球を投げた。 三浦に第2戦以上の投球を期待することは難しく、ことと次第によっては序盤で 一方的な試合になるのではないか。少なくとも第2戦以上のいい試合にはならないだろう、 ということだった。

発表された先発メンバー、日工大は第2戦と同じである。小竹が来ていたが自分で 遠慮したのかベンチの判断か、出場させなかった。大木も期待の持てる選手であり、 これはこれでわかる。サヨナラ本塁打の荒川も先発ではなく、捕手は菊岡。 これも三浦とのコンビや、勝負どころでの代打で荒川をとっておく意味でも いいだろう。対して学芸大は動いてきた。入れ替え戦で当たっている南貴之(3年生、小松高校)が3番、 藤澤が4番。矢澤ははずして松川を先頭に入れてきた。動くことがいいかどうかは 難しいが、なんとなく「あわてている」と言うか「落ち着かない」気持ちでいるのは 学芸大なのかな、とも思った。

平成13年11月18日 創価大学グランド 1・2部入れ替え戦第3戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9
日本工業大(2部1位) 0 0 1 0 0 0 1 0 1 3
東京学芸大(1部6位) 0 0 2 2 0 1 0 0 × 5

形のうえでは「あと1敗で2部転落」まで来てしまった学芸大、1回裏に2死1.3塁と 攻めるも無得点。4番に入れた藤澤は打ったが5番に降ろした大田が三振。 2回表、田北・山田の連続失策で無死1.2塁のピンチ。しかし日工大も 小林にバスターをやらせてショートゴロ併殺。ふだんこういう攻撃をしているのか わからないが、どうも入れ替え戦第3戦というのは両チームともどこかぎこちない。 これも入れ替え戦らしさというところか。2回裏、学芸大は2死満塁まで攻めながら無得点。 攻めながら残塁16を重ねた前日の攻撃をまだ繰り返しているようだ。そして先制は日工大。 3回2死無走者から酒寄哲司(2年生、下館工業高校)・渡辺・木野・大木が4連打で先制。 弱いと思われる方のチームが先制。おもしろくなってきたと思ったがその裏、 学芸大は無死1塁から藤澤が右中間に2ランホームラン。藤澤の4番起用が当たったか。 4回裏には2死2塁から藤澤を歩かせ気味に攻めて1.2塁。ここまではよかったが ここで大田へのワンバウンド投球を菊岡が立て続けに2球はじいて学芸大が労せず1点。 さらに大田のタイムリーで4点目。金子にもヒットが出て1.2塁から福永もヒット。 ここは大田が3塁を回って途中で止まってしまうというはんぱな走塁のおかげで 得点は入らなかった。それにしても三浦は苦しい投球だ。球が高い。 低く投げようとはしているのだろうが、多分「抑えがきかない」というのはこういう ことを言うのだろう。ボール球にしてもこれまでよりも明らかにはずれるものが多い。 4回4失点。よくはないし、もっと取られていてもおかしくない展開(および内容)である。

5回にも1死満塁のピンチを迎えるが三浦は南をサードゴロ、藤澤を渾身の直球で3球三振。 ギリギリ試合が壊れるのを防いだかと思った日工大。でも6回には大田にソロホームランを浴びて 5-1となった。痛い1点が入った。反撃したい日工大、3回には山田から4連打を打つなど、 いつでも打てるのかとも思わせたがその後沈黙。ただし前日のこともあるし、 まだ終盤に1度は波が来るだろう。来たときに何点まで取れるか。そんなことを思ううち、 7回に1死1塁から川口満(1年生、東総工業高校)のセカンドゴロを金子が2塁に悪送球し、1.2塁。 1番酒寄にまわり、学芸大は山田から小笠原にスイッチした。これは直感的に早いと思った。 ただ難しい判断だったとは思う。山田は投球数にしてもそれほど来ておらず(87球)、 被安打も4連打の4本である。しかしその4連打を打った酒寄からの打順にまわる。 難しい判断だ。片方が動いたことで流れが変わりそうだ。波が来た。 酒寄のサード前へのセフティバントで1塁セーフ(ヒットかと思ったが記録はエラーらしい)。 1死満塁。記録上は学芸大にまた連続失策だ。打順は2番の渡辺。もちろん ヒットや四球が好ましいが3番には木野が控え、消極的に言えば「併殺だけは やめてくれ」の場面。渡辺の打球は三遊間寄りのショートゴロ、併殺崩れで 1点入って5-2。2死1.3塁で木野を迎えた。7回3点差。ホームランで3点、長打で2点。 単打で1点を取ってあとを大木に託すか。作戦としては「打てばいい」と簡単な場面だが、 周囲の要求と木野の気持ちがどうなのか、どういう打撃が好ましいのか、 実はけっこう難しい場面だ。初球、木野は力んだか。打ち上げてショートフライに終わった。

大田のホームランのあとも走者を背負いながらなんとか点を与えずに8回まで 三浦が投げ切り、3点ビハインドで9回表を迎えた。菊岡の代打・菊間友一 (2年生、小松工業高校)が四球。こういう場面での四球というのはとにかく 攻撃側に大きな勇気を与える。日工大の応援で観戦している筆者としても 「試合がおもしろくなる」という意味でにわかに盛り上がる。川口に代打で荒川。 ホームランでまだ同点にはならないが次からは上位打線にまわり、荒川を使うなら ここしかない。期待はされたが最後、内角のカーブを見逃し三振。 ボール球に見えた。三浦の投球は際どいコースをことごとくボール、それでも 今のはストライクか? そんなことを思っていたら酒寄が初球を叩いて打球は ライト線への2塁打となった。1死2.3塁。やるではないか。2番の渡辺。 1年生ながらセンスを感じさせる打者。打ちそうな予感。しかし低めへの完全な ボールの変化球に手を出して三振。1年生、第3戦終盤、緊迫した場面で自分の打撃が できなかったか...。平成8年秋、日大生物VS杏林大の入れ替え戦第3戦、9回1点差に追い上げた 杏林大、なおも続く1死1.2塁のチャンスに最も期待できるはずの村上貴洋 (当時2年生、盈進高校)が自分の打撃ができず三振に倒れた場面を思い出してみたりする。 さて現実。2死2.3塁で3番木野。ふと次のようなことがよぎる。

場面としては1打席前と似たかんじ。3点ビハインドで走者が二人。一人で 同点にするにはホームランしかない。4番の大木は前の打席でヒットを打っているがイニングが9回。 木野の選択は? 「選択」というのはちょっと違うかもしれないが今度は初球を叩いてきれいに 一二塁間を抜いた。1点返して5-3、2死1.3塁。この打撃が1打席前にできていれば 試合はもっとおもしろかった...。いやしかしそう言っても仕方ないし1打席前の 木野の打撃を批判するつもりはない。木野は2年生とは言えいまやすべての選択を任せてよく、 すべて責任を持たせてもいいだけの存在なのだ(多分。少なくとも筆者はそう思う)。 打順は4番の大木。この日も2安打。期待は持てる。しかし最後は大きなカーブが 外角低めに決まって見逃し三振に倒れた。学芸大ベンチの安堵間、バックネット裏の 学芸大関係者の盛り上がりを見るにつけ、彼らが相当なるプレッシャーを背負っていたことを あらためて感じる。これもまた入れ替え戦らしくてよいではないか(当人たちは たまったものではないが。高千穂大・島谷監督も「入れ替え戦はやせる」と 言っていたくらいだ)。


観戦者の立場として、純粋に「野球らしい野球を見た。入れ替え戦らしい入れ替え戦を見た。」 という気持ちだった。プレッシャーもかかっていたであろう中で、実力が上のために 圧倒的には押したもののどこかペースを握り切れない学芸大。第1戦で露呈した 弱点をつぎはぎながらとりあえず修正して第2戦に臨んだ日工大。絶対に負けないという 強い気持ちのぶつかりあい。三浦の気持ちの入った力投。プレッシャーのためか 強い方も1敗を喫し、第3戦にまでもつれこみながら最後は強い方が勝つ展開。 第3戦のどこかぎこちない両チームの戦いぶり。入れ替え戦らしいではないか。

両チームの微妙な駆け引きも興味を引いた。ここ2年くらい、社会人野球も見始めた 筆者は金属バットでバカバカ打ち合う野球に触れ、どこか精神がマヒしていたような 気がしていた。1点を巡る攻防、お互いの出方をうかがいながらの策略、 先の先まで考えての作戦。野球らしい野球を思い出させてもらった気がする。 観戦してよかった、いいものを見せてもらったと、すなおに思う3試合であった。

レベルの高い試合だけを要求しているわけではない。もちろんエラーや四死球の 応酬での接戦ではものたりないが。レベルの高いもの同士の対戦ならば入れ替え戦第2戦の 前日に流通経済大と愛知学院大の明治神宮大会1回戦も見たし、当然社会人野球の 試合もレベルが高い。しかし、それとも違う何かがぶつかる試合、そんな 入れ替え戦が筆者は好きだ。


さて、テーマとはそれるが、肩入れしていた日工大の戦いぶりを簡単に振り返って 終わりにしたいと思う。第3戦帰りのバスの中でふと気がついた。結局小竹は 第3戦も出場せず、連中は全出場選手を1・2年生だけでまかなった (主将・監督は3年生が務めている)。 これは非常に大きなことではないか。下級生だけでこれだけの試合ができた。 今後に向けて大きな期待をしていいだろう。学芸大も随所に1部校らしさも 感じられ、日工大との実力差は確かにあった。それでもなんとか食い下がった。 実力も展開も流れも学芸大に向いているのに点差だけが広がらなかった第2・3戦。 「点差があまりつかなったけれど実力差はかなりあった」という評価は、 今回に限らずよく行われるが「実力差がかなりあるのに能力以上のがんばりで 点差は最小限に食い止めた」という評価もあってもいいのかもしれない。 今回の一件ではそんなことを感じさせられた。この一件を彼らがどうとらえるか。 単にいい試合をしたという満足や納得で終わっては大きな飛躍は望めない気もする。 しかし最後に木野にまわしての敗戦。ここに何かヒントが、今後に向けての きっかけとする何かがある気はする。雑草軍団のあくなき挑戦を見届けたい。


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