教科書掲載をめぐる一件について

平成14年秋、ひょんなところから筆者・山口陽三が教科書に載っているとの 噂が飛び出した。その一連の騒動についての筆者なりの思いを書いてみる。 ちなみに言うと、騒動と言ってもほとんど誰も騒いでおらず、逆にここに 書かれたことで初めて知った方もいるかもしれない。まあ、とにかく、 この一件を取り上げてみる。

ことの始まりは、インターネットの掲示板への書込みである。筆者は現在、 神奈川の社会人野球のクラブチームに所属しているがそのチームでホームページを 持っており、掲示板も開設している。その掲示板に次のような書込みがあった。

陽三が保健体育の教科書に載っているそうです。
なんでもスポーツとのかかわりかたの章で
高校3年間ベンチからチームを支えてきた
大黒柱としての活躍ぶりが掲載されているとのことです。
その教科書を入手しようとおもっています。

すっごーーーーい。陽三。
教科書に載るなんて
聖徳太子やジョン・レノンと並んだね。

少し解説をしておく。投稿者は「恵子さん」とのハンドルネームで書き込んだ 者であるが、これは誰だかわかっている。チームの監督の夫人であり、 野球が好きで我々のチームの試合の観戦・応援にもよく来る人である。 わりとなれなれしい言葉使いにも思えるかもしれないが、それはこの 「恵子さん」が偶然にも筆者と同じ会社に勤める大先輩だから、ということも あるかもしれない。

この情報を「恵子さん」はどう得たかと言うと、チームにNというピッチャーがおり、 その恋人Tが東京学芸大の4年生らしいのだが、Tが大学での講義で上記の 教科書のコピーが配られたということである。その中に筆者のことが書いて あったことに気がついたとのことである。Tがなぜ筆者のことを知っていたかは よく知らないが、Nから筆者の話を聞いたことがあったのかもしれないし、 チームのホームページなどで名前だけは把握していたのかもしれない。 そして、そのことを我々のチームの試合の応援でTと「恵子さん」が同席したときに 伝えたようである。


上記の書込みを読んだとき、筆者はさっそく「恵子さん」に電子メールを 出して状況を確認した。どうやら本名で筆者のことが掲載されているらしい。 学校名については出ていないらしいが神奈川の高校であるということまでは 書いてあるという。この段階での筆者の率直な思いは次の通りである。


やがてNからそのコピーをもらった。保健体育の教科書であると断言できる 要素はページ内にはない。本の題名がわかる要素もない。章名は「現代社会と健康」らしい。 どういったことを取り上げているのかというと、どうも自己実現ということを 取り上げている単元のようである。 ダイエーホークスの秋山幸二選手のエッセーみたいなものが書いてある。 自分の経験を振り返りながら若い人たちに「若いうちは失敗を恐れずどんどん チャレンジしてほしい」といったメッセージを送るような趣向である。 そのエッセーに対する著者側からの「解説」といったコーナーがあり、 秋山選手のエッセーのことに触れたあとに筆者の例が出される。だいたい、 5cm×5cmくらいのスペースである。

なんとかこの本を入手したいと考えた筆者は、とりあえず章名と思われる 「現代社会と健康」をキーワードに、インターネット検索エンジンのYahooで検索した。 あまり期待はしなかったがこんなキーワードでもなんとかなるものである。 正確にどの本かを特定するには至らなかったが、出版社はほぼ特定でき、 またその出版社は保健体育・国語・英語などの教科書を出版している会社でも あることを把握した。

さっそく公表されている電話番号に電話してみたが、ここでの説明にてまどった。 まず一般人が御社の本を購入できるかという確認から入ったが、教師以外の方には あまりお売りしないという形で快い返事をもらえない上にあやしまれた。 次に本題である。とある内容のページが御社の出版している本の一部であるか どうかを確認したい、という話に入った。確認できれば購入したいという話 だったのだが、「授業で使われたものと思われるコピーを持っているのだが これがどの本のものか知りたい」といった要求が、確かになんともあやしい ものである。教師かどうかという確認も受けたがそれも否定するので、 どうもうまく話が進まない。状況をすべて話してもいいのだが、金をせびる 目的と思われても心外だし、とりあえず販売されている教科書が手に入ればそれでよい。 ページ数と章名、秋山選手のコメントが掲載されていること、保健体育の教科書と 思われることなどを先方に伝えて、確認するから数分後にまた電話をくれと 言われて電話を切った。

やがて電話をしてみると、先ほど話していた人間の名前を聞いていたのでその名で 呼び出したが別の人間が出て、「はい。話はわかっております。当社のものではありません。 高校の教師の方ですか?」というかんじですぐに電話は終わった。 おそらく2番目の電話は先方のマニュアルだろう。あやしい電話があったときに 「調べるからあとでもう1度電話をくれ」と答えて、1度間を空けておいて 次に電話があったとすれば別の人間が跳ね返す。筆者個人の感触としては、 出版社はドンピシャである。それではなぜ認めてもらえなかったか?


一つは、教科書というものを巡る世界が非常に閉鎖的なのではないかという懸念である。 買いたいと言っている顧客がいるのに何をそんなに避ける必要があるのか。 教師でないと売れないとか一般消費者に売るケースはほとんどないから対応できるか わからないとか。

もう一つ、もう少し時間がたってから気がついたのは、これは教科書のコピーではない、 ということである。該当の出版社のホームページを見ていると、教科書のみならず 教師向け指導書や指導ノートといったものも出版している。指導書のコピーではないか? 確かにページの右下に「教科書関連ページ」という欄があって、題名とページ数が 書いてある。教科書にしてはおかしいと思ったが、指導書だったとすれば説明がつく。 指導書のコピーが講義で配られたのはひっかかるかもしれないが、Tは東京学芸大であるから、 教師になるための講義を行っていることを考えれば不思議はない。 そして指導書とするならば出版社の電話での対応も納得がいきやすい。 一つは、こちらが教科書だと言ったので教科書を調べたが秋山選手のエッセーなど どこにもないので「いたずらだ」と判断して「当社のものではありません」と いう返事をしたこと。もう一つは、指導書の内容だということまで確認できたものの、 なぜ教師でもない一般人が指導書の内容を知っているのか、あやしいと思って とりあえず跳ね返したか。結局筆者は「教科書ではなく指導書であろう」という 結論を出した。そうなれば入手も困難だろうし、自分の中で「自慢になるかも」 と思った野心(?)も、一般人の目に触れる本ではないという点で実らない。 こうして一連の騒動には一応のケリがついた。


ちなみに、今回わざわざこの文章を書いたのは、インターネットの掲示板に 公表されたからであるが、最初の「恵子さん」の書込みだけなら大して問題はなかった。 しかし、その書込みを読んだからかどうかわからないが、母校(大学)の 野球部のホームページの掲示板にも別の人間から「こんな情報が入りました。 OBの陽三さんが...」といったかんじで似たような書込みがあった。筆者はとある 大学野球連盟のホームページを管理しており、かなりの方々に見ていただいている。 いずれそちらのページの掲示板でも騒ぎになってしまう懸念も少しあって、 とりあえずの状況説明として書いた。こんなところで書いたところで誰も 見ていないだろうから状況説明にもならないかもしれないが、一応早めに 書いておきたかった。というのが一つではあるが、 教科書にしろ指導書にしろ、教育の現場の材料として自分が取り上げられたことを 単純に自慢したかったということの方が大きいかもしれない。


ところで、筆者がどういうことでその本に取り上げられたかということが よくわからないままであろうから、最後に一応書いておく。別の『ひとりごと』 でも触れているが、筆者の高校時代の高校野球への関わり方はやや特殊だった。 特に強くもない中堅公立校だったが、入部のときから「スコアラー志望」で入部し、 男子スコアラーとして3年間の部活動をまっとうした。自チームの記録・成績集計・分析に 加えて公式戦の際には相手チームの分析や対策もした。そういった役割を 自分から買って出て取り組んだという当時の活動がわりと珍しく、 そのことを前述の教科書(or指導書)で、"自己実現" の一つの例として紹介したものである。 ちなみに「本人に何の承諾もなく」という懸念については、ここでの記述自体は とある大新聞の地方版に載った筆者の記事をほぼ引用した形で書いてあるので、 おそらくは新聞社の方の承諾をとってあれば大丈夫という判断なのであろう。 また、「誰か高校時代の体育教官が著者に絡んでいるのだろうか?」という 憶測については、ちゃんとした調査はできていないが、該当の出版社が 出版している保健体育の教科書の著者を見る限りは知っている名前がなかったので、 そういうことではないらしい。おそらくは新聞記事だけで掲載に至ったものだろう。 当時(平成4年7月)、自分が新聞記事になったことは大きな自慢でもあるのだが、 その影響力をある程度時間がたった今になってなお感じるとは思わなかった。


完全に自分本位な『ひとりごと』になってしまった。ひとりごとだから それでかまわないと言えばかまわないのだが。この一件を巡っては 自分としてはかなり心の動きがあったので、その様子を書いておきたかった。 最後まで読んでいただいた方、どうもありがとうございました。


筆者のメールアドレス

筆者の「ひとりごと」集のページ

筆者のホームページ