相模原クラブ「つぶやき」集

三菱横浜に「残っていた輝き」
(相模原クラブ・山口陽三)

2002年の社会人野球日本選手権神奈川県1次予選。我々・相模原クラブは 抽選の結果、初戦で三菱重工横浜硬式野球クラブ(以後三菱横浜)と対戦することが 決まった。抽選会が行われたのは7月26日(金)の夕方、関内の毎日新聞社支局にて。 チームの主務・マネージャーが都合が悪く、たまたま筆者が初めて抽選会に 参加したわけだが、その席で自分で三菱横浜との対戦を引いた。 運命的な組合せに心踊った。

1年前の同じ大会。我々は三菱横浜と壮絶な試合を繰り広げた。その様子は すでに別の「つぶやき」について触れているので そちらを参照していただくとするが、 その文章を筆者は「相模原クラブは2001年8月28日を忘れてはならない」 と結んだ。忘れてはならないのだから、当然覚えているわけだが、脳裏にまだ 色濃く残るうちに再戦をすることになるとは...。自分で引いたくじが招いた結果、 うれしくもあり少し恐かった。帰宅後にすぐにチームのメンバーにメールにて 連絡し、必勝を呼びかけた。


抽選日から、正確には切羽詰まるまでなかなかエンジンがかからなかったので 試合の2週間くらい前から、スコアラーとしての筆者の、対三菱横浜の資料作成と 対策が始まった。三菱横浜の今年の県内公式戦は4勝4敗。スポニチ大会と 日立市長杯の初戦敗退を含めると4勝6敗。4勝はクラブチームからの3勝と、住友電工横浜戦。 6敗はいずれも都市対抗野球でもよく名前を聞くような強豪の企業チームである。 クラブ登録の三菱横浜と言えど、他のクラブチームにはまだまだ圧倒的な強さで 勝利するが、格上の企業チームには惜しい試合もしながら1勝もできていない という状況。まして昨年の都市対抗予選を終了してから三菱重工本社が 野球部に対しての支援を打ち切ってクラブ化してから1年と少しがたっている。 我々が勝利するのは簡単ではないが、神奈川県内で対戦する強豪の企業チーム (日産自動車・東芝など)と比べて劣るであろうとの予測は容易にする。 まして1年前には乱戦の末に9-10で敗れるという惜しい試合を戦っている。 ぜひとも勝ちたいし、その可能性も多分にあるだろうと意気上がる相手である (その一方で、無心で戦っていい試合をするのは簡単でも、勝ちに行って勝つ ことが難しいことであるという懸念もあるにはあった)。

スコアラーとしての相手の資料収集と対策と言ってもたいそうなことができる わけでもない。資料収集としては、これまでに観戦した試合のスコアや配球表を 相手選手ごとにまとめるのが主な作業。対策としては、打線のバランスや 攻撃の作戦の傾向などを伝えるようにはしているが、このへんは流動的でも あってなかなか難しい。そして、自チームの野手陣が特に気にするであろう 相手投手については、各投手のタイプの説明もそうだが、予想先発投手を 出すようにしている。そうは言っても全体的に相手投手に関しての説明や対策は 難しいし、筆者自身もスコアラーとしてあまり得意な分野ではない。 ビデオ撮影なしで特徴を伝えるようになってしまうし、数多くいる相手投手の 中で予想される先発投手をはじき出すことも容易ではない。

その先発投手の予想についてここでもう少し触れたい。企業チームにはだいたい 10人弱くらいの投手が登録されているようである。我々のようなクラブチームが 企業チームと対戦する場合に、企業チームはだいたいエース格の投手は先発 してこない。わざわざエースが先発する必要がないであろうというくらい、 実力差があるからであろう。そうは言ってもトーナメント大会がほとんどで、 クラブチーム相手に万が一でも負けることがあれば大変である。結局予想に あたっては、上から2人、下から2〜3人くらいははずして、間の5人くらいの中から 選び出す(ように筆者はしている。当然それがすべてではない)。そこからは、 こちらの打線の左右ということもあるが、それは相手もそんなに気にしていないか 知らないだろうということであまり重要なファクターではなく、よくクラブチーム 相手に投げているかそうでもないか、といったあたりでしぼる(それでもしぼり きれるケースはまれである)。

今回、三菱横浜と対戦するにあたって先方の公式戦での投手起用を見てみると 4勝中3勝は矢島崇(立教大出身、右投げ)が挙げていた。クラブチームとの対戦でよく 登板していたわけである。格上の企業チームとの対戦では6試合中5試合において 門西明彦(富士宮農業高出身、右投げ)が先発していた。そして門西は勝利こそ ないもののほとんどの試合で好投しており、三菱横浜がクラブ化してもなお、 強豪の企業チームと好試合を演じることができる原動力になっていた。 矢島と順に先発しているようにも見えたが、単なるローテーションとも 言えないだろう。例えば都市対抗野球神奈川県予選の敗者復活2回戦。 負ければ終わりの日石三菱(現新日本石油)との対戦で、最後は逆転サヨナラ2ランで 負けたものの9回途中まで1失点で抑えていたのは門西である。負けられない試合、 格上との試合には必ずと言っていいほど門西が先発しており、また結果も出していた。 今年の三菱横浜のエースは門西だった。


筆者は今年の三菱横浜の戦いぶりや大会全体の日程などを勘案した上で、 先発投手予想は1度、矢島or馬渡慎吾(片桐高出身、右投げ)という結論を出した。 クラブチームの我々に矢島or馬渡で勝ち、2回戦で対戦が予想される新日本石油に エースの門西をぶつけて勝ちに行く。ここで勝てば関東地区2次予選への 代表権獲得である。この考え方は自然である。

新日本石油 -----
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京浜野球倶楽部 ----- |
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三菱重工横浜 ----- | |
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相模原クラブ ----- |
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住友電工横浜 ---------- |
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日産自動車 ----------

(上記はトーナメント表の一部。実際には13チームが参加している。)

しかし少ししてからトーナメント表を見直して、二つ目の選択肢を思いついた。 エースの門西の先発である。これは、1年前の我々との対戦で予想以上に 苦戦をしたから、ということもあるが相手の立場に立っての選択肢である。 エースの門西で我々に確実に勝てば、新日本石油との試合を仮に落としても 5・6位決定1回戦で対戦が予想される住友電工横浜に門西で確実に勝てば それでも関東地区2次予選への代表権獲得である。強豪・新日本石油に 勝つ可能性が薄いと見ればこの策は十分にありえる。6月の都市対抗予選で 接戦を演じたとは言え新日本石油には勝てていないし、クラブ化したことで 練習も満足にはできていないであろう。前回の対戦から3ヶ月たったこの時期に あらためて新日本石油に勝つ計算がどれだけあるだろうか。1年前の我々との 対戦のことも頭をよぎり、筆者は結局最後まで矢島or馬渡か、門西なのかを 予想しきれなかった。


2002年9月8日 保土ヶ谷球場 日本選手権神奈川県予選1回戦
1 2 3 4 5 6 7 8 9
相模原クラブ 1 0 0 0 0 0 0 0 2 3
三菱重工横浜クラブ 2 0 1 0 3 1 0 0 × 7
  • (相):●飛弾、中村、佐藤、高橋、川崎-喜多
  • (重):○矢島-鶴岡

結論は矢島だった。門西だと攻略するのは難しいかと思っていたが、 試合が始まってみると矢島は矢島で攻略が難しい。スライダーに加えて シュート系の球と落ちる球とが効果的で、なかなかこちらの打線がとらえられない。 先発の飛弾も中盤まで耐えたが5回の3失点でKO。打線は終盤にも好機は作ったものの 決定打に欠き、3-7で敗れた。1年前の再戦は、返り討ちどころかそれなりの 実力差がまだあることを知らされての敗戦となった。

矢島の先発を知ったときの第一印象。それが今回のテーマである。 「三菱横浜、死んでいない」。 門西の先発は我々にとっては苦戦を強いられるであろう選択だったが、 三菱横浜にとっては弱気な選択である。新日本石油に対する勝ち目が 薄いと見て相模原クラブと住友電工横浜に確実に勝つ方を 選択するとみなすことができ、そうなれば弱気と思われても仕方ない。 門西が先発してこないことを願いながらも三菱横浜というチーム全体が 弱気になっていることも期待していたが、ところがどっこい、あくまで 逃げずに常套の手段を選択してきた。そして結果的にもしっかりとした形で 我々・相模原クラブに勝利した。本社の支援が打ち切られてクラブ化してから 1年以上がたってなお、三菱横浜には強豪企業チームの輝きが残っていた。


以上が我々が敗戦を喫した段階での筆者の印象だったが、後日談はそれとは 事情が少し異なっていた。

神奈川県1次予選2回戦 ●三菱横浜 0-4 新日本石油○ 森下、門西
神奈川県1次予選5・6位決定1回戦 ○三菱横浜 7-2 住友電工横浜● 矢島
神奈川県1次予選5・6位決定戦 ○三菱横浜 6-1 東芝● 森下、門西
関東地区2次予選1回戦 ○三菱横浜 4-2 富士重工● 矢島、門西
関東地区2次予選代表決定戦 ●三菱横浜 0-4 NTT東日本○ 矢島、森下、門西

"エース" 門西は先発登板は1度もなし。名前は知っていたがノーマークだった 森下康徳(東亜大出身、右投げ)が台頭。1次予選では前年の日本選手権準優勝チーム・ 東芝にも快勝。2次予選でもあと1勝で本戦の代表権獲得というところまで駒を進めた。 門西が一時的に調子が悪くて門西をエースとして起用しなかったのか、 門西はもともとエースという立場ではないのか。矢島・森下・門西の力関係がこの大会に おいてどうだったのか、詳しくはわからない。しかし、チームがクラブ化してのこの戦いぶり、 筆者ごときにいちいち言われたくはないだろうが、よくやっているではないか。 昨年いっぱいで多くの選手が退部し、強力クリーンアップを中心に金属バット時代に 誇った爆発的な攻撃力も今は少し影をひそめつつあるが、よくやっているではないか。 相模原クラブとの対戦で門西が先発しなかったことで「三菱横浜に輝きは 残っている」と感じた筆者の判断は視点が違ったかもしれない。しかし、 矢島なり門西なり1枚のエースの起用に四苦八苦するのではなく、 矢島・門西・森下のカードを揃えて勝ち進んだ三菱横浜。自分の視点のズレは、 それはそれとして素直に認めなければならないかもしれないが、 三菱横浜に、確かに輝きは残っていると言っていいのではなかろうか。

相手を持ち上げることで自分たちの敗戦を正当化するつもりではないが、 輝きを保つ三菱横浜に、あと一歩の大接戦を演じたこともそれなりの差を 見せられて敗れたことも事実である。しっかりした視点を持って、 しっかりしたチームとなって、輝きのある三菱横浜にまた挑戦したい。


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