平成27年 東京新大学野球連盟春季入れ替え戦

1・2部入れ替え戦第3戦、熱戦の記録

(この文章は匿名希望者によるものです)

【試合開始前】

場内アナウンスにて両チームの先発投手が発表された。学芸・上田、駿台・和田。 共に、2日前の1回戦で登板したピッチャーである。

【1回表】

駿台は、上田の立ち上がりを攻める。2つの死球で得たチャンスから、沼田・小川・ 千島による連続適時打で鮮やかに先制。

【1回裏・2回裏】

走者を背負うものの、和田が無失点で切り抜ける。

【2回表・3回表・4回表】

初回に先制を許したが上田が立ち直った。落差の大きい球を有効に使っていた。 フォークボールだろうか。追い込んでからの決め球としてだけでなく、カウントを 整える際にも用いていた。追加点を許さない踏ん張りが、味方の反撃を呼び込むことになる。

【3回裏】

学芸は、相手守備の失策と死球で無死1.2塁のチャンスを作る。3番・岩切は強攻し、 適時打を放つ。両チームの戦力を比較すると、打力だけは間違いなく学芸の方が上だろう。 各選手のスイングは鋭い。その打力がそのまま得点力につながらないところが野球の難しさではあるが…。

尚も無死1.2塁。駿台はここで投手交代。4番・久保も当然のように強攻するが、凡退。 続く5番・龍池の打席。カウント2B−1Sからの4球目にダブルスチールを敢行。 この投球はボールとなったが、捕手・齋藤から3塁へ転送されてアウト。 ひょっとしたら、エンドランのサインが出ていたのかもしれない。さらに2死満塁となるが、 代わった金濱が踏ん張り1得点のみで終了。

充実した投手陣だけでなく、齋藤の存在は大きい。学芸が機動力を駆使できないのは、 やはりこの鉄砲肩の捕手が本塁を守っているからだろう。

【4回表・5回表】

両チーム共、三者凡退。試合が落ち着いてきたかと思ったが、そうではなかった。 嵐の前の静けさだったことがこの直後に明らかとなる。

【5回裏】

2死1.2塁で打席には6番・織田。カウント1−2からベース付近でワンバウンド した球を空振りするが、齋藤も捕球することができず振り逃げとなる。熊谷は死球で 押し出し。1点差に詰め寄り、さらに2死満塁から梶原が初球を叩き打球はライトの 後方を襲う。走者一掃の二塁打となるが、駿台の中継プレーも乱れる。本塁への返球 が浮いたが、バックアップに入っていた金濱が捕って2塁をオーバーランした打者走 者を刺そうと試みる。しかしこれが悪送球となり、ボールは誰もいない外野を転がる。 あわやホームランという打球ではあったが、結果的にグランドスラムと同じ形となった。 学芸逆転。僅か20秒足らずの間に一挙4点をもぎ取った。

【グラウンド整備】

駿台はエースがブルペンで投げていた。ところが、5回のピンチには投入しなかった。 やはり、5回終了後にグラウンド整備が入るからだろうか。整備の前後で試合展開が ガラッと変わることもある。昨日完投したエースを登板させるのは6回頭からと 決めていたのだろう。

それにしても、逆転を許した後なのに駿台の選手たちは笑顔が絶えない。意気消沈する ようなこともない。このとき私は、チーム自体が入れ替え戦で負けることに慣れて しまい「本気で1部昇格を望んでいないのではないか?」とすら考えてしまった。 これが通算5度目となる1部挑戦。過去4回の対戦相手の内訳は、共栄1・杏林3。 2部校にとって、常に好投手を擁していて短期決戦に強い杏林は「1部の番人」であった と述べても言い過ぎではあるまい。2部校が、というより駿台が戦意を喪失するよう なことがなければいいのに…。そんな余計な心配をしてしまった。

【6回表】

駿台は、ヒットと捕逸などで無死1.3塁とする。ここで駿台ベンチは打者・齋藤に 「送りバント」を命じる。セーフティスクイズではない。3塁走者は動かなかった。 アマチュアではなかなか見ない采配である。

野林監督には昨日から驚かされていた。潤沢な控え選手を上手に起用するタイプの 監督さんなのだろうという印象を持ったが、追い込まれた場面では積極的に仕掛けてくる。 昨日行われた2回戦での「三者連続の代打」攻勢もそうだ。この場面では、3点 ビハインドだが「2点を取りにきた」ということだろう。

選手たちも応える。1死2.3塁から平高の犠飛。さらに、望月が放ったライナーが 一塁手のミットをはじき適時二塁打となる。狙い通り2得点を奪うことに成功した。

【6回裏・7回表・7回裏】

三者凡退が3イニング続いた。ついに後藤が登板。先頭の石山にいい当たりを打たれ たものの、抜群の安定感で学芸打線を抑える。

なかなかいないタイプだと思う。ピッチャーは感情を表に出すべきでないとする風潮 があるが、後藤は気迫を前面に出し、また味方の選手の声をよく聞き笑顔で応える。

また、上田も7回は駿台のクリーンアップを3人で切った。学芸が1点リードをキープしている。

【8回表】

上田が簡単に2アウトを取る。そして、2死からヒットを許したところで学芸ベンチ から及川監督が出てくる。迷うことなく投手交代を告げた。恐らく、あと一人走者を 出したら交代させるということを決めておられたのだろう。

ところが、この継投が裏目に出てしまう。5回に続投させて傷口を広げてしまった 駿台とは対照的だ。やはり、継投は難しい。上田のここまでの球数は110。被安打8・ 与四死球4という内容。完投させないのであればこのタイミングしかなかったと思う。 責めることなどできない。

代わった板倉は、昨日の2回戦で先発し6回までは駿台打線を無失点に抑えた好投手である。 しかし、この日は明らかに腕が振れていなかった。あとアウトを4つ取れば 勝利できる状況ではあったが、相手エースによる圧巻の投球を見たら1点もやれない と考えてしまうだろう。プレッシャーに押し潰されたとしても無理はない。2死1塁 の場面から代打・倉田がヒットでつなぎ、暴投で2死2.3塁。ここで望月が適時打 を放ち、ついに同点。さらに四球で満塁となり、清水がカウント0−2と追い込まれ てから押し出しの四球を選ぶ。これが決勝点となった。

【8回裏・9回表・9回裏】

ここまでもつれた試合であるからまだ何かが起こりそうな予感がしたが、何も起こら なかった。最後の3イニングはすべて三者凡退。後藤は、無失点リリーフどころか、 代わった6回から一人の走者も許さなかった。


【試合終了後】

勝利が決まってから整列するまでの間、マウンド付近に歓喜の輪ができた。その中で 複数の選手が涙を流している。グラウンド整備の際に抱いた私の考えは大きな間違い だった。彼らにとって、1部昇格はどうしても手に入れたい悲願だったのだ。恐らく、 精一杯声を出して明るい雰囲気を維持することで「この戦いに敗れたら次のチャンスは 半年後になってしまう。」といった不安や恐怖を制御していたのだと思う。

一方の学芸。「3点リードを守りさえすれば1部残留」という状況が2日続けて訪れた。 痛くないはずはない。しかし、整列するときに崩れ落ちて取り乱すような選手はいなかった。 手痛い負けを喫しても堂々と胸を張る彼らの姿は立派だった。

それから、平日にもかかわらず駿台の応援席は賑やかで迫力と一体感があった。 大勢の控え部員。大学関係者の方々。そして、保護者の方と思われる女性の甲高い声援もあった。 ちなみに私は、どちらを応援するということもなく観戦させてもらっていたが、 試合途中から「学芸は1部にいなければならないチーム」という考えよりも 「駿台は1部で戦ってもらいたいチーム」という思いの方が強くなっていった。駿台の選手 たちのひた向きさに心を打たれたからだ。おめでとう、駿台。そして、秋のシーズンでのご健闘をお祈りしたい。


【疑問と邪推】

どうしても腑に落ちないことがある。駿台が何故「1回戦に後藤を先発させなかったのか?」 ということだ。エース一人の力では勝てないが、2番手以降の投手の中で誰 が学芸打線に通用するのかということを初戦で確かめたいという思惑があったのだろうか。 或いは、エースに頼り切るのではなくみんなで勝とうとする意識をチーム全体 に植え付けることが目的だったのか。そして、この作戦はちょうど1年前の杏林との 入れ替え戦が影響しているのではないだろうか。雨天順延あり、引き分け再試合あり の文字通りの死闘だった。野林監督の心に「入れ替え戦で上位校に勝利するには奇策 しかない。」とのご判断が生まれたのだろうか。対戦相手の読みを外すということも 踏まえた上で、だ。もしも正攻法で臨み1回戦に後藤が先発していたら2連敗で敗退 していたかもしれない。けれども、2連勝で昇格していた可能性もある。こういうこ とはあまり考えない方がよいだろうか。神のみぞ知る領域であるのだから。

いずれにせよ、だいぶ後になって振りかえったとき、両チームのこの3日間の戦いが 東京新大学野球連盟の歴史を大きく動かした入れ替え戦として位置付けられるだろう ことは間違いない。


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